バンバン劇場

 

 劇団の仲間が言うんです。
「パチンコ、やったことないの? やってみたら、楽しいよ」
女優という仕事柄、何でも知っておきたい、経験したい私。もともと好奇心旺盛なので、知らない世界があると、矢も楯もたまらず覗いてみたくなる。劇団の事務所は中野島。近くにあるのかしら。「BANBANブラッサムがある」と仲間が教えてくれた。ところが、さがしても見あたらない。パチンコ店というと、いつも軍艦マーチとマイクのがなり声が、外まで聞こえてくるでしょ。そういう先入観で探していたから、気がつかなかったの。「ウソでしょ、これがパチンコ店!おしゃれで、まるでブティックか宝石店ね」私の第一印象。
外も内も、しっとりと落ちついていて、BGMも適度な音量。チンジャラジャラという音は仕方ないけど。明るくて広い空間がちょっぴり緊張している私をリラックスさせる。床はきれいに磨かれていて、チリ一つない。従業員の礼儀正しいソフトな応対がとっても感じがいい。ホッとする。私も見習わなくては。
 

 パチンコにもいろいろな機種があるんですね。思わず訊いてしまった。「初めてなの。初心者に向いたゲーム機はどれかしら」
にっこり笑って案内してくれた。遊び方も教えてくれた。現金をカードに換えて、そのカードをゲーム機に差し込むと玉が台の下にでてくる。始めはこわごわとぎごちなく玉を打っていたけど、中の一発が絵柄の中に吸い込まれたとたん、玉がジャラジャラとでてきて、減るばかりだった持ち玉が、元より多くなったの。そうなると俄然楽しくなって、夢中になった。玉が増えれば嬉しいし、減ればやはり悔しい。シンプルで単調なだけに、集中もしやすいみたい。女優も集中力はとても大事です。役になりきる、これってパチンコに夢中になるのとどこか似てる。パチンコで遊ぶ人って、もしかしたらみんな役者なのかも。
 

 舞台稽古の時間が迫ってきたのに、まだたっぷり玉が残ってしまった。これ、どうすればいいのかしらと、周りを眺めていると、先程の従業員の方が、近寄ってきた。「景品に換えられますよ」と、てきぱきと玉を箱に入れ、横にある機械で球数を数え、レシートを渡してくれて、二階の景品カウンターに案内してくれた。 CDを選んだ。遊んだ上に景品までもらえるなんて……。
仲間に、くせになりそう、と言ったら、パチンコはあくまで遊びだからね、と釘を刺された。でも又きっと行く私です。